ネタバレ映画『ハゲタカ』

2009年06月21日 01:24

ハゲタカ

先週観ると公言しながら予定が狂ってしまい、『ハゲタカ』(音が出ますのでご注意下さい)を渇望していたこの一週間。やっと観ることが出来ました。

ここから下はこれまた超ネタバレですのでご注意下さい。








鷲津政彦(大森南朋)に恋焦がれ、骨太の経済ドラマを堪能した2年前のNHKドラマを越える面白さでした。観た感動冷めやらぬままこうやって珍しく夜にパソコンを起動して感想を書いていることからも私の満足ぶりが分っていただけると思います。

ドラマに比べて経済物としては少し物足りないところもありました。スタンリー・ブラザースに鷲津がTOBを掛けた時に先が読めてしまった。西野治(松田龍平)をその仲介に立てるというのもあまりにも説明不足というか無茶苦茶な話だというのはちょっとした欠点。でもそんなことを補って余りある出来栄えの映画でした。

まずオープニングの中国農村の風景と、そこに流れるBGMがいい。ここでまずグッと映画にひきつけられます。とにかくこの映画は、物語の面白さ、キャストの魅力もさることながら、音楽が良く、映画の監督が初めてとは思えないほど大友啓史監督の「絵」がいい。印象に残るシーンがいくつもあります。これはテレビドラマでは表現できない、映画ならではのものだと身を乗り出して見てしまいました。マンダリン・オリエンタルホテルから東京を見下ろす劉一華(玉山鉄二)のシルエット。暗い部屋で出ない相手に携帯電話をかける鷲津の姿。「フィルム・ノワールだ・・・」とうっとりとつぶやいてしまいました。

劉一華役の玉山鉄二さん。今回また女性ファンを増やしたことでしょう。『天地人』での切なく美しい武将・上杉景虎にも惚れ惚れしましたが、この劉の哀しさ、儚さは女ごころにズギュンと来るものがあります。これはテレビでの鷲津に感じたのと同じ想い。「私はあなただ」鷲津と劉が重なり合います。

『ハゲタカ』『ハゲタカII』は読んだものの、今回のベースになっている『レッド・ゾーン』は全く読んでいないので、この劉がどういう人物なのか映画だけではわかりません。劉一華とは本当は別の人物で、ここにいる劉は母親が自分の血を売って作ったニセのパスポートで中国戦災孤児3世として少年時代に来日し、どういう経緯かはわからないけれど、アメリカに渡って鷲津と同じ「ホライズン」で働いていた中国人。過去について明かされているのはこれだけ。

オープニングで、憧れの目で初代の「アカマGT」を見ていた少年。アカマ自動車の派遣工・守山翔(高良健吾)に過去の自分を見るような劉の表情。叩き付けられた400万円の札を這いずり回って拾えと言う劉。刺され、泥にまみれながらもばら撒かれたお金を拾い集める劉。これらから私が見つけた劉一華のサイドストーリーは、あまりにも切なく哀しいものでした。

中国の黄土色の大地の中を疾走する赤い「アカマGT」を見た少年は、あの車に乗り、あの車を作り、あの車に自分の将来の夢を託したのです。母親の理解もあって、なんとか夢の車を作る日本にやって来た少年は、残留孤児3世という差別と戦いながら、いつか「アカマ自動車」に乗りたい、「アカマGT」を作りたいと願ったことでしょう。

しかし、人種的な差別からか彼はアカマ自動車に勤めることは出来なかった。そこからアメリカのホライズンにどうやって入り込んだのか、ここには想像できないような苦労があったでしょう。それこそ比喩ではなく地べたを這いずり回って、何度も地獄を見たことでしょう。

彼は守山に過去の自分を見ました。警戒心が強いくせに貰えるものは何でも貰う。守山に関心を持ったのはただ派遣工を利用したかったからだけではなかったでしょう。守山も少しは気骨のある青年でした。気骨があるが故にアカマ自動車の社長からは切られかけた。他の派遣工が正社員への道が切り開かれても守山にはその道が断たれることを知った劉は彼に400万円を与えた。ここのシーンも圧巻でした。蔑むように金を与える劉。それに反抗して金をたたき返す守山。「拾え!」という命令も最初は勝者の驕りのように捉えてしまった守山。見ている私もそんな風に思えました。でも執拗に自分もはいつくばって一万円札を拾おうとする劉の姿に、これは違うと思うと胸があつくなります。金を粗末にするな、自分はこうやってここまで来たんだ。それは劉の悲しい生い立ちを想像させて哀しく切ないものでした。

守山にもその気持ちが通じたのでしょう。這いつくばって全ての金を拾う守山。その後、証券会社の株式ボードに見入る守山のシーンがあります。ここで誰もが想像することでしょう。彼もまたこのお金を元手に劉のように野望を持って飢えたハゲタカのようになって行くのではないだろうかと。企業の人事部ではなく調達部で調達されて来るような派遣工だった彼が自分の努力で人生を切り開いて行くのではないかと期待するのです。

でも彼はそうしなかった。最後の方のシーンで、最新式の真っ赤な「アカマGT」を満足げに駆る守山。あぁ・・・。劉と守山は決定的に違うのでした。映画の最初のシーンで劉は言います。「日本は生ぬるい地獄だ」と。このことばに見事にリンクします。このシーンは特に示唆的でした。昨年末の派遣切り、それに対する偽善的とも取れるような一部の行動、マスコミのはしゃぎ方。本当の飢えと貧困の恐ろしさを知らない日本人は、あぶく銭で目先の享楽に溺れるのです。これは思い切った演出だと思いました。でもその反面、劉はまた、テレビキャスターの三島由香(栗山千明)に、現実をありのまま報道することを強います。同じ地獄を見て来たもの同志として。彼女は今後派遣の現状を世に訴え続けるでしょう。これもまた今の日本の現状なのです。どちらにも偏らないのはいい子ぶっているようにも思えますが、これはまたNHKがずっとスペシャル番組を通じて取材した膨大な量の真実なのだと思います。

掃き溜めのような村で生まれ育った劉。冨を得、これからもっと上を目指そうとしている時に、東京の中の掃き溜めのような場所で絶命する劉。短く激しく生きた劉の人生を思い涙が出そうでした。

「赤いハゲタカ」劉一華の登場で、我が愛しの鷲津政彦が少しかすんでしまった感がありましたが、やはり私は鷲津が好き♪

最初、眼鏡を外し海辺で寛いでいる鷲津を見た時には、なぜか『Dr.コトー診療所』を思い出してしまいましたが、大森南朋さんもほんと、いい役者さんです。髪を整え、眼鏡をかけ、スリーピースのベストを着ると、かっちょええ鷲津の出来上がりぃ(笑)。やっぱスーツって戦闘服よね。アラビア語を操る鷲津っていうのも素敵です。

彼の台詞のそこここに、今の経済の現状が見えます。70億も報酬としてもらっている金融トップ。会社を破綻させても彼らは逃げるだけ。経費節約を声高に唱え、温情のないコストカット。「アカマ自動車は日本国そのものだ」という言葉にはなにやら日本というよりも、アメリカとGMとの関係を想像してしまいます。企業再生の道は厳しい。

1989年にベルリンの壁が崩壊し1991年にソ連が崩壊して、社会主義がほぼ消滅したと看做されてから約20年経った今、資本主義もまた変容を余儀なくされています。「これからどこへ行く?」と尋ねる芝野(柴田恭平)に対し「資本主義の焼け野原を見に行く」と答える鷲津。まるで錬金術のような金融工学がペテンにしか思えなくなった今、鷲津はその焼け野原から何を生み出そうとするのでしょうか?彼は救世主なのか、それとも破壊者なのか・・・。

最後になりましたけど、映画『ハゲタカ』のBGMは全て素晴らしかったです。中でもドラマのエンディング曲でもあった「ROAD TO REBIRTH~a chainless soul~」、このフルバージョンに痺れる痺れる。エンディングはあっさりと黒いバックに名前なんかがあがって行くだけなのですが、これを聞きたいために最後まで座ってました。結構そういう人が多かったみたい。でも調べたら、サントラに全部入ってないんですよね。ちょっとマーチっぽいアレンジでホントに素敵な曲なのに。

さて、ではアマゾンでポチっとしたので、明後日には原作『レッド・ゾーン』とサントラが届くことでしょう。本当ならばもうあと2回は見たいです。お薦め!
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